ラフレシアの花より見出された多様な昆虫相   

○溝田浩二・広永輝彦(北大・農・昆虫体系)・Mariati Mohamed(マレーシア・国立サバ大学)


  ラフレシアは世界最大の花をもつことで有名な被子植物である。その分布は非常に限られており、マレー半島・ボルネオ島・スマトラ島・ジャワ島・ミンダナオ島に15種が分布しているのみである。いずれの種もブドウ科のミツバカズラ属のつるに寄生するという変わった生活様式をもつが、その詳細な生態に関しては未だに不明な点が多い。その中でも、ラフレシアの送粉様式は多くの研究者に興味が持たれながら、ほとんど解明されていないテーマの一つである。「何故あれほどまでに巨大な花をつけなければならないのか?」、「どんな動物が花粉を運んでいるのか?」など、重要かつ基本的な生態がほとんど明らかにされていない。

  ラフレシアは雌雄異株なので、受粉が成功するためには(1)雄花と雌花が同時に咲き、しかも(2)雄の花を訪れた動物が雌の花を訪れる、という二つの条件を同時にクリアしなければならない。しかし、ラフレシアの花は開花後およそ4〜5日で腐ってしまい、しかも、個体密度が非常に低い。そのため、受粉が成功する確率は相当に低いものであると推測される。このような状況下で、どのような動物がラフレシアの花を訪れているのだろうか?ラフレシアと昆虫との相互関係を解明するためには、ラフレシアの花を訪れた全生物相の調査が是非とも必要であった。

  発表者らは、1999年10月にボルネオ島サバ州クロッカー山脈国立公園の低地フタバカキ二次林においてRafflesia keithii Meijer の産地を発見し、その訪花者の調査を行った、その結果、合計31種115個体の昆虫が採集された。その内訳はハエ目(クロバエ科:6種,47個体、イエバエ科:12種,43個体、ショウジョウバエ科:4種,6個体、ノミバエ科:3種,13個体、タマバエ科:1種,2個体)、コウチュウ目(ハネカクシ科:2種,2個体、ガムシ科:1種,1個体、チビシデムシ科:1種,1個体、ヒョウホンムシ科:1種,1個体)であった。時間帯別にみると、採集された個体数は8:00-9:00が26個体、11:00-12:00が38個体、14:00-15:00が44個体、17:00-18:00が8個体であり、14:00-15:00に昆虫の飛来は最高となった。夕方になるとクロバエ科、イエバエ科もほとんど飛来しなくなり、代わりに甲虫類が訪花するようになった。

  今回調査を行った Rafflesia keithii では、クロバエ科、イエバエ科を主要なポリネーターとして、30種を越える多種の昆虫によって送粉されている可能性が示唆された。また、従来まったく報告のなかった甲虫類の訪花が明らかとなり、そのいずれもが腐肉食性のものであったことも新しい知見であった。植物の多くは訪花者の中から、送粉を果たすもの(送粉者)とパートナーシップを結んでいるが、ラフレシアの場合はそうではなく、腐肉に集まる性質をもったきわめて多種の昆虫が送粉に寄与しているようである。このようなラフレシアの送粉様式の適応的な意義について考察したい。